診療報酬・診療報酬改定
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2021.10.28
混合診療って一体何なの?
本記事は「混合診療の概要とよくある事例」について、担当経営コンサルタントの園田が医師のために記載した文書です。
令和4年度診療報酬改定について詳しく知りたい先生は小冊子やセミナーもご覧ください。
〈目次〉
1.保険診療と自由診療とは?
まず「混合診療」を説明する前に、その前提の知識として必要になる「保険診療」と「自由診療」について簡単に説明します。
■「保険診療」の意味
保険診療とは、国民健康保険や健康保険に加入している人が医療機関にて受診する「国民皆保険制度にて保障されている公的医療制度の対象となる診療」を意味します。
基本的には実際にかかった医療費の1~3割分を自己負担することで、その診療を受けることができます。そして残りの医療費は、加入している保険者の負担で賄っている形となります。
■「自由診療」の意味
自由診療とは保険診療では対応できない「公的医療制度の対象外となる診療」を意味します。従って、自由診療の治療費は保険が適用されませんので、全額自己負担となります。
日本国内における主な自由診療の項目としては次のような治療があげられます。
以下自由診療の扱いになる治療
- 治療ではなく外見の向上を目的とした美容整形手術やレーシックによる視力矯正手術
- 白内障手術
- 予防接種(種類による)
- 健康診断、人間ドック
- にんにく注射
など
よく誤解されがちなのが上記治療と同時に保険診療の治療を行った時のケースです。
このケースだと通常1~3割負担でまかなえる保険診療分も全て自己負担になってしまいますので注意が必要です。
また、自由診療には日本国内ではまだ未承認でも海外では結果が出ている治療も含まれているため患者さんは治療の選択肢が広がります。しかし、自由診療の料金は医療機関ごとに各々設定されていますので、クリニック目線で見ると価格競争が起こりやすい治療とも言えます。
2.1を踏まえて混合診療とは?
混合診療とは、一連の治療の中で保険診療と自由診療を組み合わせて、医療サービスを提供することで保険診療の分は健康保険で賄い、保険診療外の分を患者さんが費用を支払うことで費用が混合することを指します。一連の治療というのをより詳しく説明すると、1つの疾患に対して保険診療と自由診療の治療をそれぞれ行い、混合させてしまうことを意味しています。混合診療は原則として日本国内では承認されていません。禁止されている理由としては下記2点があげられます。
➀本来は国民皆保険の考えに則して、国民全員が保険診療により一定の自己負担額を支払うことで平等に必要な医療を受けることができるが、もし混合診療が承認されれば各個人の経済状況によって受けられる医療に差が出てきてしまい不平等になるため。
➁実際海外では承認されており、一定の評価を得ている治療でも日本の医療制度ではまだ安全性・有効性等が確認されていない医療が保険診療と合わせて治療をすることで間違った形で医療が広まってしまうおそれがあるため。
3. 混合診療が認められている事例
日本国内では原則認められていない混合診療ですが、治療選択肢の充実や医療サービスの質の向上を目的として一部診療やサービスで認められているものがあります。例外的な混合診療が認められると保険診療分の治療費は1~3割負担で、自由診療分の治療費は全額自己負担と分けて考えることが可能になります。
例外的に混合診療が認められている事例としては、下記で定められている評価療養と選定療養を含む保険外併用療養費制度が適用される場合のみに限ります。
○評価療養…保険導入のための評価を行うもの
- 先進医療
- 医薬品、医療機器、再生医療等製品の治験に係る診療
- 薬事法承認後で保険収載前の医薬品、医療機器、再生医療等製品の使用
- 薬価基準収載医薬品の適応外使用
(用法・用量・効能・効果の一部変更の承認申請がなされたもの) - 保険適用医療機器、再生医療等製品の適応外使用
(使用目的・効能・効果等の一部変更の承認申請がなされたもの)
○選定療養…保険導入を前提としないもの
- 特別の療養環境(差額ベッド)
- 歯科の金合金等
- 金属床総義歯
- 予約診療
- 時間外選定療養費
- 大病院の初診
- 小児う触の指導管理
- 大病院の再診
- 180日以上の入院
- 制限回数を超える医療行為
以上、混合診療が認められている事例です。細かい要件はここでは省略しますが、例えば完全予約制で予約料を徴収しているクリニックでは、選定療養にあたる予約診療が関係してきます。
4. 現場でよくある混合診療と関係のある事例と注意点
■事例①公費による定期予防接種と自費による任意予防接種の診察
予防接種を混合診療として行うことは厚生労働省の発表文書の中で
と記載があり、予防接種は療養に直接関係するものではないと考えられるという前提があります。こうした前提がありますが、混合診療を行った場合に発生する可能性のある事例として「二重請求」があげられます。
「二重請求」とは初診料や再診料等の診察代を保険診療と自由診療で2回算定してしまうことです。原則二重請求は、初診料算定にかかる保医発通知(平成20年3月5日0305001号)では
と記載されているため、禁止されています。
例えば、市区町村が実施する定期予防接種の場合、診察代金は公費負担のため、既に公費の中にワクチン代金と診察料が含まれていますが、同時に行った保険診療において再度診察料を計上することは認められません。
次にインフルエンザワクチンの予防接種を含む任意接種に関しては、自由診療となるため自己負担費用の中にはワクチン代金のみを想定しており、診察料を含まないとするクリニックもあります。この場合には、現在慢性的な疾患の治療(保険診療)で通院している患者さんに対して、独立して行われるインフルエンザワクチンの予防接種を行い、保険診療内において診察料を徴収することは二重請求には該当しません。
よって、定期予防接種は二重請求になるリスクがあり、任意予防接種にはそのリスクはありません。
■事例②健康用サプリメントやドクターズコスメ、コンタクトレンズの処方と販売時のケース
医療提供サービスに関しても、上記同様に厚生労働省の発表文書の中で
と定義されています。
健康用サプリメントやドクターズコスメ、コンタクトレンズは、それぞれ「食品」「化粧品または医薬部外品」「医療機器」であり医薬品とは異なる法的位置づけとなるため、療養の給付に直接関係のないサービスに該当します。ただし販売を行う場合には同文書内(平成20年9月30日保医発第0930007号)で記載されている下記条件下での販売に限られます。
つまり、
- 院内掲示にて当商品が実費負担になることが知らされていること。
- 当商品の説明と患者さんの同意が得られており、患者さんの意思で購入していること。
- 保険診療代金とは別で会計を行っていること。
- 曖昧な名目の会計は行わないこと。
以上を守り、販売を行うことが最低限のルールということになります。
5. まとめ
今回は混合診療について改めて理解を深めていただくために記載致しました。記載させていただいた中の「現場でよくある事例」を経験したことのある医院・クリニックの先生も中にはいらっしゃったのではないでしょうか?こうしてみると診療をする上での基本の考えである混合診療についても更に学びを深めることで、自分の診療を守り、そして活かすことができるかもしれません。今後は医療が発達するにつれ「先進医療の混合診療」の定義にも変化が起こる可能性があります。従って、地方にある医院・クリニックであっても平等な医療を提供するために、その変化に上手に対応し、患者さんに誤った選択をさせず、良き相談相手になってあげることが医師として一番大切となります。