診療所(クリニック)におけるシュライバーの役割と意義
本記事ではクリニックに於いてもニーズが増加する「シュライバー」について、クレドメディカルの志賀が医師の為に記載した文書です。
より詳しく知りたい先生はこちらからお問い合わせください。
<目次>
1.シュライバーとは?
2.シュライバーとクラークの違いは?
3.ここ数年クリニックでもニーズが高まっている理由
4.クリニックにおけるシュライバーやクラーク体制加算
5.クラーク・シュライバーの育て方(初級編)
1.シュライバーとは?
シュライバーとは医療機関においては、医師のカルテ入力をサポートする役割の人を指します。多くの方が誤解されていますが、電子カルテに限らず、紙カルテにおいてもシュライバーは医師の負担を軽減してくれる可能性のある役割です。
シュライバーはドイツ語で「書く人」「書記官」を意味する言葉です。その語源から日本国内では総合病院やクリニックでは1日に診療する患者数が多い耳鼻咽喉科医院などに於いてかなり以前からその役割が普及していました。現在は電子カルテにおけるシュライバーが主流になってきていますが、医師の働き方改革、そして患者さんへの待ち時間削減への社会的要請から、シュライバーの役割は病院においても、そして診療所(クリニック)に於いても重要度を増してきています。
2.シュライバーとクラークの違いは?
シュライバーはドイツ語であるのに対し、クラーク(直訳では「書記」)は英語であり、担っている役割からすれば実質的には違いは無いといってよいでしょう。各医療機関ごとに、「シュライバー」「クラーク」「メディカルクラーク」など様々な形で呼ばれています。
また、弊社の一部のクライアントにおいては
診療中のS:主観的情報(患者さんが感じている症状)やO:客観的情報(医師が検査や診察で得た客観的情報)の入力を行う人を「シュライバー」、
A:評価(医師の診断)やP:治療計画や処置(評価に基づいて決定した治療方針や指導内容など)の入力を行う人を「クラーク」、
と呼び分けて2人態勢でドクターのサポートを行い、患者さんの満足度を下げることなく多くの方の診療を実現されている例もあります。
3.ここ数年クリニックでもニーズが高まっている理由
先にも述べましたが、電子カルテの普及・進化に伴い、シュライバーの有用性が高まってきていることが理由です。電子カルテの導入率でも先行していた総合病院において、「医師事務作業補助体制加算」を契機に先にシュライバー(クラーク)の普及が進み、現在では3割以上の病院でシュライバー(クラーク)が配置されています。
従来の紙カルテであればまず医師の手元でカルテを確認して、その後にシュライバーに渡して代筆してもらう、あるいはその逆のパターンといった形でカルテを医師とシュライバーが同時に記入することは物理的に難しかったのですが、電子カルテにおいては医師によるカルテの確認と入力、シュライバーによる入力が同時に行えるものが主流となっています。
シュライバーが診察に合わせて入力をしてくれるようになると何が起こるのか?
具体的な診療風景を例に挙げて、解説したいと思います。
患者さん「先生、朝起きた時から喉が痛くて、熱もあるんです。」
(シュライバー入力)
医師「そうですか、先ほどの検温では38.3℃ですね。また問診票で書かれているのは体のだるさ、ですね。これはおつらいでしょうね。朝起きてから食事はできていますか?」
(シュライバー入力)
患者さん「食欲がなくて、しかも食べ物を食べたり唾を飲み込むと特に喉が痛いんです。」
(シュライバー入力)
医師「なるほど、飲み込んだ時に特に痛みを感じられるのですね。わかりました、それでは喉を診ますね。・・・(中略)・・・ああ、咽喉が腫れていますね。扁桃腺という下の付け根の両側にあるリンパ組織が特に腫れています。急性扁桃炎と思われますので、そちらに基づいて治療を行っていきましょう。(ここで医師はカルテ上でシェーマ入力)」
(シュライバーも入力)
患者さん「扁桃炎ですか、ちゃんと治りますかね?」
医師「細菌による感染と思われますので、本日は〇〇という細菌に効果を発揮する抗菌薬と、▽▽という炎症を抑える飲み薬を共に●日分、そしてこちらも炎症を抑える★★という嗽薬を出しておきます。この診察の後で看護師から療養や服用の方法や食事の方法、薬を飲んでも症状が取れなかった場合の対応について説明してもらいますね。他にご不明点はありませんか?」
(シュライバー入力)
患者さん「薬を飲んで治ったらもう来なくても大丈夫ですか?」
医師「はい、服用していただいて症状が完全に治まった再度お越しいただく必要はありません。ただし、処方したお薬は途中で症状が良くなったとしても必ず最後まで飲み切るようにしてください。特に抗菌薬を最後まで飲み切っていだたく理由、重要性についても看護師から説明させていただきます。もしお薬を飲み切っても症状が完治しない場合にはお薬を飲み切った時にもう一度診せてください。今日はお薬を飲んで安静にして、体を休ませてあげてください。」
(シュライバー入力)
患者さん「わかりました、今日はありがとうございました。」
医師「お大事になさってください、それでは看護師よりご案内させていただきます。」
上記の診察風景は、よくある内科などでのワンシーンかも知れません。しかし、この一連の診察が終わったタイミングで、主訴や所見は勿論、処方や治療計画、指導内容までがシュライバーによってすべて入力が終わっていたとしたら、先生方はどう思われますか?上記の医師が診察中に行ったことはシェーマに色付けをしたのみです。それ以外はすべてシュライバーがリアルタイムにやってくれる。そして診察が終わると同時にカルテを軽く確認して、すぐに次の患者さんの診療に移ることができる。
これがシュライバーの威力です。
4.クリニックにおけるシュライバーやクラーク体制加算
病院においては「医師事務作業補助体制加算」が算定でき、2020年度の診療報酬改定からは有床診療所においても同加算が算定できるようになりました。現時点では一般的なクリニック(無床診療所)においてはまだ同加算の算定は認められていません。
しかし、クリニックにおいてもシュライバーの有用性が認められていることから、いずれは無床診療所においても加算が認められるようになるかも知れません。
5.シュライバー・クラークの育て方(初級編)
シュライバーやクラークは熟練度によって貢献度は大きく変わります。ただしどこの医療機関でも「はじめの一歩」はあるものです。
まずは初級編として電子カルテのクリニックを念頭に、最もスタンダードな育て方としては、
0)可能であれば、初級程度でもいいので無料タイピングソフトなどでタイピングの練習を行っておいてもらう。(ただし、いずれできるようになるため必須ではありません。)
1)医師以外に隣でカルテを入力できるキーボードと画面をもう1台用意する。(別の端末にするか、医師と同じ端末からシュライバー前のモニタにも同じ画面を出力してそれぞれが入力できる仕様にするかは各電子カルテメーカーの特色によって検討の余地がありますが、後でも変更できるためまずはどちらでも構いません。)
2)初歩としては診療中の「S:主観的情報(患者さんが感じている症状)とO:客観的情報(医師が検査や診察で得た客観的情報)」を入力していってもらう。医師と同じように略語などを使って入力できればベストですが、初めのうちはシュライバーが自身が聞いた言葉を打ち込んでもらって構いません。
3)慣れてきた段階で、少しずつ上記2)について要約の上で記入する。これまで医師が常として入力している記載ルールがある場合は少しずつそれを教えていく。
4)上記1)~3)までが出来る方を院長1診のクリニックの場合においては最低でも2人、できれば3人育てていただく。
上記が一般的な初級ステップです。これだけでも殆どの先生方は「診察時のカルテ入力負担が減った」「診察が早くなった」と実感されます。(紙カルテもほぼ同じ手順で導入が可能です)
各科目ごとにおける差異もあるため、初級以上のステップや採用やトレーニングなどの細かい点は是非弊社の科目ごとの経営セミナーをご聴講ください。
最後にシュライバーを導入の成否を分ける一番大事なポイントをお伝えしておきます。
シュライバーが継続的に育つ一番の要件は「医師(多くの場合は院長)がシュライバーがまだ未熟な段階で怒鳴ったり、きつい口調で指導しないこと」です。100件以上ものクリニックでクラークの導入・指導実績がある弊社だからこそ知る、大変重要な経験則です。
シュライバー教育体制が洗練されれば3か月程度で一人前のシュライバーになります。しかしそれはあくまで将来の目標。まずはこれからシュライバーを育成し、院内の重要なポジションとして確立していくには「石の上にも3年」のお気持ちでじっくりと取り組んで下さい。