ビタミン剤、うがい薬、湿布薬、ヘパリン類似物質の処方制限について
本記事は「ビタミン剤、うがい薬、湿布薬、ヘパリン類似物質の処方制限」について、担当経営コンサルタントの西村が医師のために記載した文書です。
令和4年度診療報酬改定について詳しく知りたい先生は小冊子やセミナーもご覧ください。
〈目次〉
1.医療費増加に至る背景
「なぜ医療費が増えるのか?」
ご存知の通り日本は国民皆保険制度であり我々が納める保険料や税金が使われることで医療制度が成り立っています。日本の医療費が増加していることは多くの方がご存知のことと思います。日本全体の医療費は年々増加しており、その要因として挙げられるのが高齢化問題です。以下の総務省統計局のデータを見ると、これから少なくとも約20年は総人口に占める65歳以上の割合はすべての年代で増加しています。
<総務省統計局の総人口に占める高齢者の割合の予測>
2020年 | 65歳以上:28.9% | 70歳以上:22.3% | 75歳以上:14.9% | 80歳以上: 9.3% |
---|---|---|---|---|
2025年 | 65歳以上:30.0% | 70歳以上:24.2% | 75歳以上:17.8% | 80歳以上:10.9% |
2030年 | 65歳以上:31.2% | 70歳以上:24.9% | 75歳以上:19.2% | 80歳以上:13.2% |
2035年 | 65歳以上:32.8% | 70歳以上:25.8% | 75歳以上:19.6% | 80歳以上:14.1% |
2040年 | 65歳以上:35.3% | 70歳以上:27.2% | 75歳以上:20.2% | 80歳以上:14.2% |
参考:総務省「統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-」高齢者人口及び割合の推移(1950年~2040年)
つまり若者と比較して健康保険を使うことが多い高齢者が増えることで、医療費は増えていきます。メディアで報道されている通り国民皆保険制度が維持しづらい社会になってきており、時代が進むに連れてさらに維持は難しくなります。その財源を確保するために医療費を削減することは日本の急務な課題となっています。
2.医療費を抑制するための規制
以下の厚生労働省の医療費の将来見通しのデータを見ると、年々医療費は増加しており、2018年と2040年を比較すると約168%も増えることになります。約22年で約31兆円も増える試算がでています。
<医療費の将来見通し>
2018年 | 保険料:22.1兆円 | 公費:16.8兆円 | 自己負担: 6.4兆円 | 合計:45.3兆円 |
---|---|---|---|---|
2025年 | 保険料:26.0兆円 | 公費:21.5兆円 | 自己負担: 7.5兆円 | 合計:55 兆円 |
2030年 | 保険料:29.0兆円 | 公費:24.8兆円 | 自己負担: 8.3兆円 | 合計:62.1兆円 |
2035年 | 保険料:32.1兆円 | 公費:27.9兆円 | 自己負担: 9.2兆円 | 合計:69.2兆円 |
2040年 | 保険料:35.3兆円 | 公費:31.0兆円 | 自己負担:10.0兆円 | 合計:76.3兆円 |
参考:厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」等について
経済成長率×1/3+1.9%-0.1%にて記載
そのため医療費を抑制する対策として過剰な処方を防ぎ、適正な使用を促すために、一部の処方薬を保険適用外にしたり処方数を制限するなどして、国は以下のような規制を行ってきました。
<処方薬制限の主な診療報酬改定の経緯>
- 2012年度(平成24年度改定)
栄養補助、美容目的などのビタミン剤の処方は保険適用外 - 2014年度(平成26年度改定)
治療目的ではないうがい薬の処方は保険適用外 - 2016年度(平成28年度改定)
1処方における湿布薬の枚数を、原則70枚までに制限 - 2018年度(平成30年度改定)
保湿剤(ヘパリンナトリウム・ヘパリン類似物質)について、疾病の治療以外を
目的としたものについては保険適用外にすることを明確化
3.ビタミン剤、うがい薬、湿布薬、ヘパリン類似物質の処方制限
【ビタミン剤の改定内容】
平成24年度の診療報酬改定で、ビタミン剤のすべてにおいて単なる栄養補助目的での
投与は医療保険の対象外になりました。ただし当該患者の疾患又は症状の原因がビタ
ミンの欠乏又は代謝異常であることが明らかであり、かつ、必要なビタミンを食事によ
り摂取することが困難である場合その他これに準ずる場合であって、医師が当該ビタ
ミン剤の投与が有効であると判断したときは除くとされています。
【うがい薬の改定内容】
治療目的でない場合のうがい薬だけの処方については、医療保険の対象外となりまし
た。入院中の患者以外の患者に対して、うがい薬(治療目的のものを除く)のみを投与
された場合については、当該うがい薬に関わる処方料、調剤料、薬剤料、処方箋料、調
剤技術基本料を算定しないとされています。
【湿布薬の改定内容】
湿布薬について1処方につき原則70枚の処方制限を行うこととなりました。-入院中
の患者以外の患者に対して、1処方につき70枚を超えて湿布薬を投薬した場合は、当
該超過分に係る薬剤料を算定しないこと、ただし医師が疾患の特性等により必要性が
あると判断し、やむを得ず 70枚を超えて投薬する場合には、その理由を処方せん及
び診療報酬明細書に記載することで算定可能とすることとなりました。
<対象>
・対象となる湿布薬は貼付剤のうち薬効分類上の「鎮痛」「鎮痒」「収斂」「消炎剤」
(ただし、専ら皮膚疾患に用いるものを除く)気管支拡張剤(ツロブテロール等)、
医療用麻薬(フェンタニル等)の貼付剤は対象外となります。
<70枚を超える処方について>
治療上必要であれば医師の判断によって、1処方70枚を超えての処方は可能です。
その場合は処方箋の備考欄に当該湿布薬の投与が必要であると判断した趣旨を記載す
る必要があります。
【ヘパリン類似物質の改定内容】
湿保湿剤(ヘパリンナトリウム・ヘパリン類似物質)について、疾病の治療以外を
目的としたものについては、保険給付の対象外である旨を明確化することとなりまし
た。-入院中の患者以外の患者に対して、血行促進・皮膚保湿剤(ヘパリンナトリウム
又はヘパリン類似物質に限る。)を処方された場合で、疾病の治療を目的としたもので
あり、かつ医師が当該保湿剤の使用が有効であると判断した場合を除き、これを算定し
ないこととなりました。
4.まとめ
医療費が増加するに伴いその抑制をするために、本来の治療目的とは異なる処方は制限されつつあります。日本の国民皆保険は全ての国民が高いレベルの医療を享受できる素晴らしい仕組みです。ただ冒頭でお伝えしましたように医療費の抑制は急務となり、この仕組み自体が維持できなくなる可能性もあります。そのため平等な医療の提供という意味では医療費を抑制することは迎合すべきことかと思います。しかし一方で医療費抑制の流れは将来的にクリニック経営にも影響を与えると考えています。やや飛躍した言い方にはなりますが、医療費抑制の名のもとに近い将来には処方薬だけではなく、今行っている保険診療においても制限がかかる可能性もあります。今後は今行っている診療に加えて新しいメニューを増やす、または自由診療の分野を拡充するなどクリニック経営の戦略を時代に合わせて変化させていく必要があるかと思います。