悪循環からの脱却
「医師としての役割以外の業務」を"マネージャー"へ
耳鼻咽喉科医院はある程度の年数が経つとそれなりに患者さんが多くなり、結果として先生方に余裕がなくなってくる場合が多いようです。
開業当初は、「こんな診療をしたい」「患者さんに満足してもらえる体制を構築したい」と志高く思われていた院長先生も、患者さんにお越し頂くようになって診療時間中の医師としての仕事、そして経営者としての慣れない経理事務など様々な経営者としての業務、そしてスタッフマネジメントの業務に追われ、次第に時間的・精神的余裕がなくなるということがよくあります。
またその一方で、忙しくなってくるとスタッフに関する問題が発生しやすくなります。
当初の比較的人数が少なかった時期を知っているオープニングスタッフは、
「もっとゆっくり仕事ができると思っていたのにこんなはずではなかった」
「帰る時間が遅くなって今後続けていけるのだろうか」
「忙しくなっているのに給与(時給)があまり上がらない」
などの不満や不安を抱き始めます。
そして新しく入ったスタッフもこうした愚痴や不満を先輩スタッフから聞かされているうちにそれらが広まってしまうのです。
そして院長先生とスタッフの関係が少しずつぎこちなくなってしまう、というパターンになってしまうのです。
このタイミングにおいて、こうしたスタッフの問題に対処するため、本来は院長先生が働き方や給与など問題に対処せねばなりません。
しかし元来マネジメント業務のご経験のない、もしくは興味がない(苦手に思われている)先生方が、忙しくてご自身の疲労が蓄積した中でそうした問題に果たして積極的に対応できるでしょうか?
多くの院長先生がここで見て見ぬふりをしてしまい、一方で患者さんは日々増えていき、スタッフは忙しくしているため、不満は一層蓄積していく、という悪循環に嵌っていくのです。
そのような悪循環に陥り、スタッフが辞めては雇い、辞めては雇いを繰り返し、月日が流れて既に十数年、といった耳鼻咽喉科医院も決して珍しくありません。
こうした悪循環から脱却するには、
① 既存のスタッフから院長を支えてくれるマネージャーを作る
② 既存のスタッフに①に該当する人間がいないのであればしっかりとしたステップで募集を行い、採用を行い、その候補となる方を入れ育てる(常勤が理想ですが、パートでも構いません。)
③ スタッフの勤務時間、待遇や評価の適正化(賃金は高すぎても低すぎても歪みが出ます。)
をすることです。
マネージャーを配置している医院は少ないでしょうから、その場合は②から始めることになります。(この②の取組は特に重要です。)
マネージャーと聞くと統率力があり、カリスマ性があって・・・
と思われるかも知れませんが、必ずしもそうである必要はありません。
・寡黙でも仕事を堅実にこなし、周りのスタッフからの信頼が厚い方
・院長先生とスタッフ達が不仲であっても、その中にあって冷静な判断が出来ている方
・経験が浅くとも成長著しく、医院が発展することに協力的な方
など、何か光るもの、他のスタッフとは少し違うものを持っている方であれば、十分候補に成り得ます。
ただし、気を付けていただきたいのは
「院長先生と反りが合わない方を絶対にマネージャーにしてはならない」
ということです。
いかに統率力や指導力があってもこのような方をマネージャーに据えてしまうと、多くの場合スタッフを代表し、何かと批判や要求を行う「労働組合の委員長」のようになってしまい、組織は一層硬直化し、院長先生の心理的負担が大きくなる可能性が高いのです。
院長先生の中の「医師としての役割以外の業務」として、
・募集・採用・教育・評価の一連のマネジメント業務の大部分
・経理
・他のスタッフの人心掌握
・診療オペレーションの管理
・営業や来客のコントロール(秘書業務)
こういったこと(一部でも構いません)を任せられる方がいるかいないかで、院長先生の負担は大きく変わります。
院長先生の負担が減れば、もう少し患者さんに余裕を持って向き合うことができたり、あるいは診療レベルの向上に向けて知識を得たり、学会に参加して新たな知見を得る、そしてさらにそれが診療にフィードバックされ、質の高い診療ができる、という好循環に代わってゆくのです。
既存のスタッフで候補の方がいらっしゃらないのであれば採用から行っていくことになりますから、場合によっては3年~5年の長期的視点に基づいてマネージャー候補を育成していかなくてはなりません。
とはいえ、将来を見据えて今から少しずつ準備をしていくことがやがて医院を大きく発展させる、あるいは院長先生の負担を大きく減らし診療に集中できる「組織化」された耳鼻咽喉科医院に繋がるのです。
「そんなに時間がかかるなら、やっぱり止めておこう」
「今の閉塞感を打破するために、一度取り組んでみよう」
同じ状況になった時、どちらを選択されるのか?
この経営者としての決断が発展への分かれ道なのかも知れません。
本コラムが先生方のお役に立てば幸いです。