任せる勇気
「習慣、思い込み」の壁
様々な耳鼻咽喉科医院にお伺いしている中で、
各々の医院の個性は様々ですが、
何をどこまでスタッフに任せておられるか?
逆に言えば何をどこまで院長がやっているのか?
ということも様々です。
特に初めてお伺いする耳鼻咽喉科医院の場合ですと
「忙しいとはおっしゃっていたけど、こんなことをやっていたら、
時間がいくらあっても足りないのは当然だ・・・」
と面食らうような場面にも遭遇することがあります。
例えば、1日の診療が終わった後に、後付けで患者全員分の病名を付け、
さらに毎月のレセプト請求業務や返戻作業を自分でこなし、
果てには職員のタイムカードの集計とシフト表の作成までされていました。
他にも、ある程度ハードルが高い業務は当たり前のように任せておられるのに、
一方で、職員が入るたびに丁寧に社保関係の資料を
院長室でせかせかとご自身で書かれている先生もいらっしゃいます。
このように、難易度や重要性などに関係なく
「なんとなくこれまでそうしてきたから・・・」
「たぶんこの業務は難しいのでまだスタッフにはできない」
など、これまでの慣習や思い込みによって、
院長先生自身が大事な時間を自ら奪っているような気がしてなりません。
先生方の1時間とは実は大変貴重なものなのです。
- 平均的な1回あたりの診療単価:3,500円
- 1時間に15人患者さんを診療できる
とすると
1時間当たりの売上は 3,500×15=52,500円
1回あたりの単価が4,000円以上の医院や
1時間に20~30人程度みられる医院の場合ですとその1時間の価値は一層増大します。
つまり、自分の時間を削って毎月2時間をかけてタイムカード集計を自分でするのであれば、
そこは誰かに任せて、(場合によっては税理士さんや社労士さんに任せて)
自分は診療をしておいた方がよほど楽ですし、生産性も高まることになる訳です。
さらに、先生方の時間が貴重なのは、診療に留まらず、
繁忙期、閑散期を問わず、医療技術に関わる情報や、補助金や助成金などの情報収集に申請、
スタッフの給与計算、教育方針、方法の検討などの医院の経営に関わる
本質的な事柄の決定をすることができるからです。
先生方が雑務の権限委譲ができない理由は繰り返しになりますが、
「習慣、思い込み」によるものなのです。
是非一度、診療時、診療外の様々な業務を客観的な立場で
棚卸しすることから始めていただくと良いでしょう。
ルーティン業務はあまりにも自分の中に自然と溶け込んでいる為、
客観的分析が難しい場合もあります。
そこで、
1日単位:朝来てから夜帰るまでに何をしているか?
週単位:曜日によって何か決まってしていることはないか?
月単位:月末、月初など決まった時期にしていることはないか?
を書き出していただき、思い込みの壁を排除して権限委譲をする項目を決めてください。
項目は大きな事だけに限らず、小さなことでも構いません。
例えば、「朝自分が出勤時にすべてのパソコン関係のスイッチを入れている」
といったような些細なことでもどんどん任せる決意をしてください。
他にもホームページの更新やツールの作成、SNSへの投稿などもあるかもしれません。
あとはそれらの任せる業務をリスト化し、
「どの項目から(優先順位)」任せるのか
「誰に」任せるのか
「いつまでに」任せるのか
「その結果どうなった」のか
を管理できるようにしておけば、あとはその順序とスケジュールに従って、
業務の委譲をおこなってみてください。
そこまでできれば、権限委譲のステップとしてはほぼ半分が終わったようなものです。
後半部分のスタッフなど他者への任せ方のノウハウについては、
① 習得する準備をさせる、理由・目的を伝える
② 手順を説明し、やってみせる
③ やらせてみる
④ 教えた後のチェック、できていたら承認(ほめてあげる)
といったステップを実行していく流れになります。
ここまでが出来れば、先生の普段の煩雑な業務を一定程度、スタッフに委譲し、
先生はより重要な取り組みに時間を割くことができるようになります。
医師であり、マネージャーであり、経営者である先生方にとって「時間の確保」は想像以上に重要です。
そして、院長自身が人に任せるステップを体得するとそれをスタッフにも伝授することができるため、
新人の教育などの効率が飛躍的に高めることができる、という嬉しい副産物も生まれます。
是非一度、任せる勇気をお持ちいただき、ご自身の負担の軽減にチャレンジしてみてください。