マネジメント

診療と経営を両立させるタイムマネジメント術

<目次>

1.  はじめに:なぜ、院長の「時間」が最重要経営資源なのか
2.  まず着手すべきこと:タスクの可視化と優先順位付け
3.  クリニックの未来を創る「重要業務」の時間をどう確保するか
4.  院長の時間を最大化する「業務委譲(デリゲーション)」の技術
5.  大きな課題へ踏み出すための「タスク分解」のコツ
6.  まとめ:タイムマネジメントによる持続可能なクリニック経営

1. はじめに:なぜ、院長の「時間」が最重要経営資源なのか

整形外科クリニックを率いる院長先生は、日々の診療で患者さんと向き合いながら、同時に経営者としてスタッフを束ね、クリニックの舵を取っています。
その両立がいかに大変なことか、コンサルティングの現場で多くの先生方とお話しする中で、日々目の当たりにしております。
特に整形外科は患者数が多く、リハビリ部門など多くの部署が関わるため、マネジメントも複雑化になります。
加えて、診療報酬改定への対応など、外部環境の変化も行きつく暇を与えてくれません。
「今日も時間が足りなかった」「経営について考える時間が持てない」…こうした声は、決して少なくありません。

しかし、院長の「時間」は、クリニックにとって最も貴重な経営資源です。
その使い方次第で、クリニックの未来は大きく変わります。
日々の業務に忙殺され、長期的な視点での重要な取り組み、例えば、新たな治療法の導入検討、スタッフの育成計画、経営基盤の強化などが後回しになってはいないでしょうか。

今回お伝えするのは、単なるスケジュール管理術ではありません。
限られた時間の中で生産性を最大化し、クリニックの持続的成長に繋がる「重要業務」に集中するための、戦略的な時間の使い方、すなわち「タイムマネジメント」の実践です。
これは、多忙な先生方が現状を打破し、理想のクリニック像を実現するための、強力な武器となり得ます。

2.まず着手すべきこと:タスクの可視化と優先順位付け

最初の一歩は、先生の頭の中にある「やるべきこと」「やりたいこと」を、大小問わず全て書き出して「見える化」することです。
漠然とした不安や焦りを具体的なタスクリストにすることで、全体像を把握し、冷静に対処する土台ができます。

次に行うのが、「優先順位付け」です。全てのタスクを「重要度」と「緊急度」という2つの軸で考えてみてください。
すると、自然と4つのカテゴリーに分類されるはずです。

・緊急かつ重要なタスク(例:急患対応、クレーム処理、締め切りのある手続き)。これらは迅速な対応が求められます。
・重要だが緊急ではないタスク(例:経営計画策定、スタッフ育成、新規設備導入検討、仕組み改善、自己研鑽)。クリニックの未来を創る上で最も重要な活動ですが、意識しないと後回しになりがちです。
・緊急だが重要ではないタスク(例:多くの電話やメール、一部の会議、予期せぬ来訪)。これらに振り回されると、時間はあっという間に過ぎ去ります。
・緊急でも重要でもないタスク(例:目的のないネットサーフィン、整理されていない資料探し)。これらは極力減らすべき時間です。

多くの先生方が、日々の診療の中で「緊急かつ重要」な第一の領域や、「緊急だが重要ではない」第三の領域のタスクに忙殺されている現状があります。
しかし、本当に注力すべきは、第二の領域、「重要だが緊急ではない」活動なのです。

3.クリニックの未来を創る「重要業務」の時間をどう確保するか

クリニックの未来を左右する「重要だが緊急ではない」第二領域の業務。これらは、自ら能動的に働きかけなければ、決して向こうからはやってきません。
では、どうすればこの時間を確保できるのでしょうか。

最も確実な方法は、「第二領域に取り組む時間を、予めスケジュールに固定してしまう」ことです。
「毎週〇曜日の午後は、スタッフ育成プランを練る時間」「月に一度は、次期経営計画を検討する日」といった具合に、他のアポイントメントと同じように、ブロックしてしまうのです。
細切れの時間ではなく、集中できるまとまった時間を意識的に確保することが、質の高いアウトプットに繋がります。

もちろん、そのためには他の領域、特に第一領域(緊急かつ重要)や第三領域(緊急だが重要ではない)に費やす時間を効率化し、削減する必要があります。
そこで重要になるのが、「業務委譲(デリゲーション)」の考え方です。

4.院長の時間を最大化する「業務委譲」

院長の時間は有限です。全ての業務を抱え込むのではなく、「院長でなければできない仕事」に集中するために、スタッフを信頼し、仕事を任せる技術、すなわち業務委譲が不可欠です。

まずは、現在抱えている業務を冷静に見つめ直し、「これは本当に自分にしかできないか?」と問いかけてみてください。

院長にしかできない業務
クリニックの理念や経営方針の決定、最終的な人事・労務判断、医療安全に関わる最終決定など、経営者としての根幹に関わる意思決定。
任せられる可能性のある業務:
資料のドラフト作成、情報収集、業者との初期連絡、面接日程調整、定型的な事務作業、院内ルールの運用など。

例えば、ホームページの更新作業では、最終的な内容のチェックと承認は院長が行うべきかもしれませんが、記事の作成や写真の準備、システムへの入力作業などは、信頼できるスタッフに任せられるのではないでしょうか。
「自分がやった方が早い」という気持ちも理解できますが、それは短期的な視点です。
長期的に見れば、スタッフの能力を引き出し、育成する機会と捉え、勇気をもって任せること。
これが、院長の時間を創出し、組織全体の力を高める鍵となります。

5.大きな課題へ踏み出すための「タスク分解」のコツ

「スタッフ育成体系を構築する」「DX化を進める」といった第二領域の大きなテーマは、どこから手をつけて良いか分からず、つい後回しにしがちです。
このような場合は、最終ゴールまでの道のりを、具体的な行動レベルの小さなタスクに分解することが有効です。
例えば「DX化」であれば、「情報収集」「デモ依頼」「比較検討」「導入計画策定」といった具合に細分化し、それぞれに担当者や期限を設定することで、一歩ずつ着実に前進させることができます。

6.まとめ:タイムマネジメントによる持続可能なクリニック経営

整形外科クリニック特有の多様な患者層やリハビリ部門なども含む組織の複雑性は、院長先生のタイムマネジメントをより一層重要なものにしています。
今回ご紹介した、タスクの可視化と優先順位付け、戦略的な時間の確保、そして勇気ある業務委譲といったタイムマネジメントの技術は、日々の忙しさから抜け出し、クリニックの未来を創造するための時間を手に入れるための実践的なアプローチです。

ぜひこれらの考え方を取り入れ、「時間に追われる」状態から「時間を戦略的に使う」状態へとシフトすることで、より質の高い医療の提供と、持続可能なクリニック経営、そして先生ご自身の豊かな働き方を実現されることを、心より願っております。

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