マネジメント
マネジメント

クリニックにおける整理・整頓の考え方と実施のための4ステップ

突然ですが、先生方はご自身のクリニックの整理整頓について考えたことはありますか?

なかなか他のクリニックの整理整頓の状況を知ることはないため、クリニックの整理整頓がうまくできている方なのか、それとも実はあまり整理整頓ができていないのか、把握することは難しいですよね。

しかし、意外なところに自院の整理整頓について見直すきっかけがあります。
それは、新人のスタッフさんからの意見です。

先日クライアント様の新人スタッフさんからこんな相談がありました。

「クリニック内の備品が整理されておらず、どこに何があるか分からない」
というご相談です。

ベテランのスタッフは長年の慣れで整理整頓があまり行き届いていない状況を問題視していなかったものの、新人スタッフの新鮮な視点から見るとクリニック内の備品が整理されておらず、大きなストレスとなっていたのです。
これは、多くのクリニックで起こりうる問題です。

先輩スタッフさんにもクリニック内の状況について話を聞いてみると、
そこまで気にならないです」「○○なら探せば大体見つかるので
と大きな問題には感じていないようですが
“そこまで”“探せば”といった、気になるフレーズを口にされていました。

多くのクリニックでは、日々の診療業務に追われ備品の整理整頓が疎かになりがちです。
ベテランスタッフは、経験と勘で必要なものを探し出すことができますが、新人スタッフはそうはいきません。
探し物に時間を費やすことは、直接的な業務効率の低下に繋がるだけでなく、新人スタッフのストレスや、ひいては離職にも繋がる可能性があります。

ここでお伝えしたいことは「慣れでどうにかなってしまうからこそ」整理・整頓によるメリットとデメリットを考えていただきたいということです。

<整理・整頓をするメリット>
では、整理整頓によって得ることができるメリットを見ていきましょう。

■業務効率の向上
探し物に費やす時間を削減することで、診療時間、患者対応、事務作業などに充てる時間が増えます。
例えば、検査に必要な試薬や資料を探す時間が一日あたり5分短縮できたとすると、年間で考えるとかなりの時間削減になります。
この時間は、新たな患者さんの診察や、スタッフの教育、事務作業などに充てることができます。
そうすれば、新人スタッフさんの成長スピードもあがり、診療効率も上がるため、結果的に残業時間の短縮にも繋がります。

■新人スタッフの育成促進
備品の位置が明確であれば、新人スタッフは迷うことなく作業を進められます。
先輩スタッフに質問する回数も減り、業務に早く慣れてもらうことが可能になります。
これは、スタッフの定着率向上にも繋がり、採用コストの削減にも貢献します。

■医療ミスの防止
必要なものがすぐに取り出せる環境は、医療ミスの防止にも繋がります。
慌ただしい状況下でも、必要なものがすぐに手に届くことで、医療の質の向上にも貢献するでしょう。

<整理整頓ができていない場合のデメリット(隠れたコスト)>
整理整頓ができていない場合、以下のデメリットが生じている可能性があります。

■残業時間の増加
探し物や非効率な作業による時間のロスは、残業時間の増加に直結します。これは、人件費の増加という直接的なコストにつながります。

■診療効率の低下
スムーズな診療の流れが阻害され、患者さんの待ち時間増加、医師・スタッフの負担増加につながります。

■スタッフのモチベーション低下
入職直後の新人スタッフさんは「忙しそうにしている先輩になかなか声をかけづらい」という悩みを持つことが多いです。
整理・整頓がされていないクリニックの場合は、新人スタッフさんにとって物を探す作業が1つ増えるだけで、「周りに迷惑をかけてしまうのではないか」というストレスを与えることに繋がります。
このちょっとしたストレスの積み重ねが、スタッフのモチベーションの低下や離職に繋がっている可能性があります。
これは、採用コストや教育コストの増加という形でクリニックに損失をもたらします。

世界的企業のトヨタも5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)といった整理・整頓の考え方を徹底することで業務の生産性を上げ成長を遂げています。
もともと5Sとは、昔から製造業で広く使われてきた言葉ですが
近年では医療業界においてもその有効性が認識され始めており
「5S実施委員会」等を設置して、クリニック内の整理整頓に取り組むクリニックも増えてきています。

<整理・整頓の進め方>
ではここからは、実際に整理・整頓を始める際の流れについてご説明します。

●ステップ1
まずは、院長先生から整理整頓の目的(「皆が働きやすい環境づくり」「業務効率化」「残業時間の削減」「医療ミス削減」「患者満足度向上」など)を明確に伝え、全職員に共有します。  ビジョンを明確にすることで、スタッフのモチベーションを高められます。
ミーティングだけでなく、ポスターやメールなどを活用し、積極的に情報発信しましょう。
院長から言われて嫌々整理・整頓に取り組むのと、目的を理解し納得した上で取り組むのとでは、効果が大きく異なります。

●ステップ2
スタッフミーティングを開催し、現場の課題を洗い出します。場所別に整理整頓の現状を把握し、改善点を具体的に議論しましょう。
付箋を使って、各自が自由に意見を書き込み、ホワイトボードなどに貼り付けて可視化すると、問題点が明確になり、活発な議論を促せます。
さらに、現状の写真を撮影することで、問題点を具体的に把握しやすくなります。

●ステップ3
「誰が、いつまでに、何を、どのように」整理整頓するかを明確にした計画を作成します。チェックリストを活用することで、進捗管理をスムーズに行えます。
Excelやプロジェクト管理ツールなどを活用し、進捗状況を可視化することで、スタッフのモチベーション維持にも繋がります。
また、写真撮影を活用して、Before/Afterを比較することで効果を実感しやすくなることも期待できます。

●ステップ4
実際に作業が始まると「捨てる物を選別する」作業が大切になります。

クリニックにおいては、
「捨てていいのかわからない」「もしかしたらまた使うかもしれない」等でなかなか物が捨てられないという状況が発生しやすいです。

このような場合

・1年以上使っていないものは捨てる等、廃棄の基準を明確にする
・廃棄フローチャートを作成する
・廃棄責任者を設定する
等のルールを設定することで廃棄作業を進めやすくすることが大切です。

定期的な整理・整頓作業を行う際に
「残した結果、実際に何回使ったのか」
「新しく必要な物を置く場所はあるか」
などを検討することも、よりよい環境を作っていく上で重要な考え方です。

クリニックの整理整頓は、一見些細な問題のように見えますが、実際には業務効率の向上、スタッフの育成、患者満足度の向上、ひいてはクリニック全体の成長に大きな影響を与えます。

今回ご紹介した4ステップを参考に、ぜひ整理整頓に取り組んでみてください。
小さな改善が、クリニックの未来を大きく変える可能性を秘めています。

本コラムが先生方のお役に立てば幸いです。