人口予測から見る医業収入激減の未来図
増加する診療所、減少する人口
現代において、少子高齢社会が加速し、日本の人口が減少に転じていることは皆様もご存じの通りかと存じます。
2021年10月現在、日本の人口は1億2512万人(概算)ですが、2040年には1.1億人を切り、2050年には1億人を切ると言われています。
(政府統計 e-Stat、内閣府推計より)
また、有床の病院/診療所が減少傾向にある一方で、無床の一般診療所の数は、1993年時点で61,745施設、2010年時点で89,204施設そして2021年現在は98,246施設と、増加傾向で推移しています。
(厚生労働省 医療施設動態調査より)
2021年の人口が1億2512万人(概算)ですので、単純計算で、1.2512億人÷98,246施設=1診療所当たり1,273.5人程度の患者さんを受け持つことができる計算となります。
そして、おそらく今後もしばらくは無床一般診療所の数が増え続けると予想されますが、仮に診療所の数が増減しないという楽観的予想であっても単純計算で2040年には1.07276億人÷98,246施設=1診療所当たりの受け持ち患者数は約1,092人、2021年の数値と比較すると約14.3%減という結果となってしまいます。
患者数減少が医業収入に及ぼす影響
繰り返しになりますが、診療所の数(≒競合の数)が変わらなかった場合の楽観的な推計でさえこうなります。
- 現在もなお無床一般診療所は増え続けていること
- 医師需給分科会でも医師飽和時代が叫ばれていること
を鑑みると、「受け持つ患者数が14.3%減少」という推計よりもさらに大きな打撃を受けるクリニックが相当数出てきてしまう、と考えてもよいでしょう。
人口減への対策を何もせず、およそ20年後、予測通りに患者さんが14.3%減ってしまった場合、医業収入にも当然大きな影響が現れます。例として「2021年時点で年間8,000万円の医業収入」である皮膚科医院の場合、患者数が14.3%減少したら、単純計算で医業収入は6,856万円まで減少します。
人件費、家賃、設備投資などの諸経費は医院によってまちまちですが、患者数が14.3%減ったからといって、そこまで大きく変動するものではありません。そうなると、このマイナス1,144万円の打撃は
- スタッフの雇用の維持が難しくなる
- 設備の維持が難しくなる
という形で医院の経営、医院の未来図に大きな影を落とすことになるでしょう。
- 自己負担率の上昇
- 長期処方の増加
- リフィル処方箋の導入
など、患者さんが皮膚科診療所を訪れる回数が減る要素がまだまだ存在する昨今、医院側はどのような対策を打つべきなのでしょうか。
- 医薬品費、検査の委託費などに関して業者の相見積もりを取る
- 入居時の設備状態との比較から家賃交渉を行う
- スタッフ数を絞って人件費を減らす
- 効果の低い広告出稿を止める
- 美容皮膚科部門を中心とした医療機器の購入頻度の見直し
など、経費・固定費削減の手段はいくつもありますし、実際に選択・実行をしていただくことも大切なのですが、やはり「削減」にはどれも限界があります。
人口減・診療所増に逆らうための経営戦略
そうなると、一番大事になってくるのは「医院の土台を固める」という観点です。
「患者さんに求められる医療を提供できているか」
「患者さんを呼び込める専門性の高い医療を提供できているか」
そういった「自院のブランド・強み」を持ち、患者さんを呼び込み続ける引力がなければ、人口減の流れに逆らうことは難しいでしょう。また、情報化社会・口コミ時代ということを考慮すると、「自院のブランド・強み」を持つだけでなく、その強みをベースとして、
- 情報を発信し、自院の存在に気付いてもらう
- 自院に来ていただいた患者さんには「自院のファン」になってもらう
といった施策も並行して行う必要が出てきます。
現時点での、有効性の高い具体的な施策を以下に列挙します。まず「(1)自院の存在に気付いてもらう」という点で言うと、
- Googleマイビジネスの活用
- PPC広告の活用
などを通して、将来患者さんとなりうる方々に医院を認識してもらい、「新規患者を継続的に集められる体制」を整える方策が考えられます。
<Tips: Googleマイビジネスの活用について>
以下の2つの対策はすぐに打つことができ、またやり方さえレクチャーできればそれ以降、医院のスタッフさんに権限を委譲することも可能です。やろうと思えば今すぐに無料で運用できるサービスですので、ぜひご一考いただけますと幸いです。
Tips1: 正確な医院情報の登録
医院住所、診療時間、連絡先、医院HPの登録等、「正確で、必要十分な情報」を掲載しておきましょう。
※「このビジネスのオーナーですか?」という表記が出ている場合、そちらをクリックして初期の登録から始める必要があります。
Tips2: 定期的な更新
臨時休業のお知らせ、診療時間の変更、美容皮膚科の予約の空き状況など、即時性の高い情報はHPに掲載するだけでなく、Googleマイビジネスにも投稿するようにしましょう。
また、院内の様子や季節ごとのお知らせなど、「医院の雰囲気が伝わる写真」も併せて定期的な投稿をしていただけますと理想的です。
写真なども絡めて、Googleマイビジネスを「定期的に更新」することで、マップ検索画面に表示されやすくなったり、ローカル検索結果に表示されやすくなったりと、「今後自院の患者さんとなりうる方々」へ効果的に訴求することが可能となります。そして「(2)『自院のファン』を増やす」という点で言うと
- 効果的な院内マーケティングの実施
- LINE公式アカウントの活用
などを通して定期的なPUSH型の情報発信をすることで、実際に来院された患者さんに「次も何かあったらここで診てもらいたい」と思っていただける仕組みを構築する、という方策が考えられます。
(皮膚科医院のSNS活用については、こちらの記事をご覧ください)
<Tips: 患者さんからの信頼を得て、「自院のファン」になってもらうために…>
ふと振り返ってみると、患者さんが皮膚科医院に求めていることとは何なのでしょうか。患者さんからの信頼・支持・満足を得るために、医院側から何をすべきなのでしょうか。
これは答えのない問いのようにも見えますが、「ちゃんと病気が治ること」「きめ細やかで親身な診療を行うこと」の2項目に関しては、多くの医院で「求められていること」であると我々は考えています。
また、診療の効率を上げることで、多くの患者さんを治療したいという思い、そして同時に、一人ひとりの患者さんの治療をきめ細やかにフォローしたいという思いは多くの皮膚科開業医が陥るジレンマかと思います。
このジレンマを打ち砕き、「医院に求められている2項目」を達成するための一つの手段として、弊社では院内マーケティングの重要性をお伝えしております。
我々のクライアント様の例を挙げると
- 自院の診療方針に即した形で、独自の治療カード(疾患についての説明リーフレット)を作成する
- 検査結果について、診察時間内で説明しきれない情報をリーフレット化する
- 看護師、あるいは事務スタッフによるアフターカウンセリング(患者さんへのお声掛け)を導入する
- 事前web問診の導入により、患者さんの利便性向上と業務の効率化を行う
- スタッフの接遇力向上のため、スタッフのための勉強会やセミナーなどを積極的に受けさせる
などといった形で、
- 時間の都合から、診察室内で説明しきれない部分の説明をツールやスタッフさんに委譲する
- 診察室の外でも患者さんに充分な情報を提供できる仕組みを整える
- 患者さんが来院されてから帰られるまでの間に、「小さな好印象」を何度も与えられる仕組みを整える
といった効果を狙う施策を導入いただいている医院様がいらっしゃいます。
これらを総合して、院内で行う自院のアピールのことを、我々は「院内マーケティング」と呼んでおります。ご参考いただけますと幸いです。
ここまでお話いたしました施策は、皮膚科の医院経営を支えるほんの一部分でしかありませんがこのような地道な積み重ねが、医院の継続性を支えることに直結するのです。すでにクリニックの二極化は始まっています。繰り返しにはなりますが「自院のブランド・強み」を持つだけでなく、その強みをベースとして、
- 情報を発信し、自院の存在に気付いてもらう
- 自院に来ていただいた患者さんには「自院のファン」になってもらう
上記の2点が今後のクリニック経営の礎になりますので、
- できることは1つでも多く実施
- 実践していないことはまず導入
といった積極的な姿勢で始めていただければと思います。
また、
「本記事の内容についてさらに深堀りした内容を聞きたい」
「自院の状況に即した形での対応策を考えたい」
など、お気付きの点がございましたら、
こちらのリンクより弊社の無料個別オンライン経営相談をご活用くださいませ。
引用文献:
日本の人口推移:e-Stat
診療所の軒数推移:厚生労働省 医療施設動態調査
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1a.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m20/dl/is2010_01.pdf
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m21/dl/is2110_01.pdf
日本の人口推計:内閣府統計
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/s1_1_1_02.html