皮膚科経営を安定させる患者ロイヤルティの高め方
■患者ロイヤルティについて
皮膚科クリニックを安定的に経営していくには、一定数以上の患者さんに継続して来院していただくことが重要です。
しかし、新型コロナウイルス出現以降は患者さんの通院スタイルが大きく変わり、薬の長期処方を望む患者さん、オンライン診療を望む患者さんが全国的に増加傾向にあるようです。
そのため安定した皮膚科経営のために継続して来院していただきたいけれども、経営維持を目的としてむやみに頻回な通院を指示すると、患者満足度が大きく低下する可能性があります。
今回はそのような状況における患者維持、増患対策として患者維持率と患者ロイヤリティについてお伝えいたします。
※ロイヤルティは英語表記ではloyaltyとなり「忠誠」などの意味を指します。
マーケティングでロイヤルティと言われる場合、ブランドや企業、店舗などへの愛着を意味する言葉となります。
■患者維持率について
患者ロイヤルティを高めることが患者数の維持・増加に繋がる理由は、患者ロイヤリティを高めることで、患者維持率を高い水準で維持することに繋がるからです。
皮膚科医院は単価が低いため、患者数を維持することが非常に重要になります。
そのため皮膚科医院において患者維持率は大切な指標と言えます。
患者維持率は今来院されている患者さんの内1年後も来院されている患者さんの比率のことを指します。
例えば年間の患者数が3万人のクリニックで患者維持率が90%の場合と、50%の場合を比較した際の推移は以下のようになります。
【患者維持率90%の皮膚科クリニック】
1年後:100%×90%=90% 27,000人
2年後: 90%×90%=81% 24,300人
3年後:81%×90%=72.9% 21,870人
50%の場合は下記の数値になります。
【患者維持率50%の皮膚科クリニック】
1年後:100%×50%=50% 15,000人
2年後:50%×50%=25% 7,500人
3年後:25%×50%=12.5% 3,750人
患者維持率が低い状態は、お風呂の栓を抜いたままお湯を入れる行為に例えることができます。
仮に患者維持率が50%の状態が5年続いた場合、今来院している患者さんの内、約3%(上記の数値で計算した場合は900人) しか来院されていないことになります。
この場合5年後も今の患者数と同数の患者数に戻すためには、今来院している患者数の
97%分(上記の表で計算した場合は29,100人)の新規患者を年間で獲得しなければいけないことになります。
競合医院の乱立に加え、人口自体もこれから減少する中で、新規患者の獲得競争はより一層厳しくなると考えられるため、97%の新規患者を年間で獲得することは、非現実的な数値だということがお分かりいただけると思います。
■既存患者さんの掘り起こし
今後も皮膚科クリニックを安定的に経営するには「今来院している患者さん」をいかに維持するかが重要となります。
ただ、今来院している患者さんの維持率を見直す際に、現状の患者数の減少が著しい場合は、既存患者の掘り起こしを先にされることをお勧めします。
既存患者の掘り起こしの一例としては過去来院していた患者さんの内、直近数カ月来院されていない患者さんに、クリニックからお知らせを送る方法があります。
具体的な方法としては下記です。
・予約システムのお知らせ機能を活用する。
・名簿を抽出しハガキ等でお知らせを送付する。
・LINEで大きな美容キャンペーンを行う。など
あくまで目安ですが、昨年と同程度の患者数まで回復させることを優先した後に患者維持率を調査していきます。
■患者維持率と患者ロイヤリティ調査の具体例
クリニックの患者維持率を調べるには、月毎の新規患者を抽出し、1年以内に通院したことがあるかどうかを確認することで計測できます。
新規患者数のデータとともに、クリニックに来なくなった「流出患者数」を計測することで、定量的なデータとして皮膚科医院経営に活かすことが出来ます。
ただ、上記のデータだけでは患者維持率を把握できたとしても、どのようにすれば患者ロイヤルティを上げることができるか?改善すべきところはどこか?を把握することができません。
その場合は患者アンケートを取得することが有効です。
アンケートを活用し、「治療の満足度は何点ですか?」や「改善点や気になることはありましたか?」といった設問に回答してもらうことで、患者さんが継続して通院する意思があるかどうかを確認できることに加え、患者ロイヤリティを高めるための改善すべき点を把握し、改善策を講じることができます。
アンケートはGoogleフォームなどのWEBツールを活用することで効率良く集計することが出来ます。
WEB問診票を扱っている場合、メーカーによって異なりますが、受診後数時間経ってから、自動でアンケート送信をしてくれる機能が付いたシステムがあります。
このシステムを活用して、スタッフさんの業務負担を増やすことなくアンケートを集めている皮膚科クリニックもあります。
アンケートでは治療満足度以外に、自院の改善点や医師の接遇、スタッフの接遇についても確認しておくことで改善点を集めることができます。
患者さんから集めた意見に真摯に向き合い改善していくことで患者ロイヤルティが高まります。
近年ではGoogle口コミの点数も皮膚科クリニックの集患対策、新規患者獲得において大きな影響を与えるようになってきています。
悪質な口コミももちろんありますが、不満コメントが増える要因の一つに、患者さんが不満を吐き出す場所がGoogle口コミしかないという背景もあります。
クリニック内でアンケートを実施しておくことで、不満がある患者さんにとって「不満を伝える場所」を提供でき、Google口コミに負のコメントが投稿されにくくなる可能性は高まります。
■まとめ
患者数が減りやすい状況の中、患者数の維持や増患を考える際は患者維持率と患者ロイヤリティを大切にすることが重要です。
新規患者の維持や増加が難しくなっている現状においては
1:現状の患者維持率を把握する
2:既存患者を掘り起こす
3:患者ロイヤリティを調べる
4:患者ロイヤリティを高める
5:患者維持率を定期的に計測する
の順で皮膚科クリニックの経営基盤を強化していただければと思います。
患者ロイヤルティが高い患者さんは、家族や友人、知人に良い口コミを広めてくれるため、新規患者としてリアルな知人を呼んでくれる可能性が高くなります。
さらに既存患者からの口コミで来院した患者さんは、来院前からクリニックの雰囲気や院長先生の診療方針などを知った状態で来院してくれることから、他院へのスイッチの可能性が低いという特徴があります。
皮膚科においては、アトピー性皮膚炎や円形脱毛症などの一般的に長く付き合うことが多い疾患もあるため、患者ロイヤリティを高めることで、良い口コミを長期的に広げていただくことに繋がります。
ぜひ皮膚科医院経営に役立てていただけますと幸いです。