皮膚科医院経営におけるUSPの重要性

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当記事では、クリニックを安定的に経営するという観点から、医院経営におけるUSPの重要性について触れたいと思います。

 

【USPとは?】

USPはUnique Selling Propositionの略であり、
「自社の商品やサービスだけが持つ独自の強み」のことを指すマーケティング用語です。

 

クリニックで提供される“医療”というサービスは、専門性も高く一般の方には理解が及ばない領域があるのは事実です。

また、日本においては国民皆保険を理由に、医療サービスの質がある程度均一化されているため、

特に保険診療を中心としたクリニックを経営する上では、他の業界(製造業、小売業など)に比べてUSPがさほど重要視されていない様に感じます。

 

【皮膚科医院のレセプト枚数推移】

確かに、平常時であればUSPなど意識せずとも、真摯に医療に向き合うことで一定の患者数が確保でき、クリニック経営は安定するのですが、新型コロナウイルス流行以降、月あたりのレセプト枚数の減少が多くの皮膚科クリニックで見られるという現状があります。

例えば、2019年以前であれば2週間ごとに処方していた薬が、コロナ禍以降は3週間ごと、4週間ごとと微妙に長期処方へ移行している例は多いのではないでしょうか?

このペースで変更した場合、年間で12回来院していた患者さんが、年間6~8回の来院にまで落ち込むことを意味しています。

これ以外にも様々な要因が重なり、月あたりの通院回数やレセプト枚数がじわじわと減少傾向にあるにもかかわらず、漫然と医療を提供しているだけでは、経営状態が悪化する可能性を否定できません。

 

また、さらに例を出すとすれば、
国民全体の行動様式の変容から、以前であれば通院をしていたような症状でも、外出を控えるために通院を先延ばしにしたり、あるいはOTC医薬品で済ましたりしてしまう方が増えることで、全国的にクリニックに来院する患者さんが減少している可能性は大いに考えられます。

 

【OTC医薬品側のUSPを例に】

そのような状況の中で、クリニック独自の強み・特徴や、患者さんにとってのメリットを、自院では患者さんに提供、訴求できているか振り返ってみてください。

医院の強みや特徴、患者さんにとってのメリットとは、「接遇が良い」「待ち時間が短い」と言ったクリニック全体の話もそうですが、
細かな話で言うと先生方の処方一つをとっても違いが生まれます。

 

例えば、多くの皮膚科医院で処方されている医療用医薬品のリンデロンは、2021年2月以降、OTC医薬品(指定第2類医薬品)として「リンデロンVs軟膏」などがドラッグストアなどでも販売されています。

先生方はそのことを受けて、「OTC医薬品よりも優れた医院のUSP」を考えた上でステロイド外用薬を処方されているでしょうか?

 

ある先生は、
「OTC医薬品の方が金額を高く設定しているので大丈夫です。クリニックの患者数には影響出ませんよ。」
という説明をMRさんから受けて、安心していらっしゃいました。

 

しかし、果たしてそれは正しいのでしょうか?

確かにOTC医薬品は、多少金額は高いですが、その代わりにドラックストアで手軽に購入できるという利便性があります。

つまりこれは、OTC医薬品がクリニックでの処方と比較されたときに
・待ち時間0
・どこでも手に入る
という明確なUSPを持っているということに他なりません。

残念ながら、「単純な利便性」ではOTC医薬品にクリニックが勝ることはできません。

 

しかし、同じ土俵で戦わなければいけないということはありませんので
OTC医薬品の持つUSPに対して、皮膚科医院でしか提供できないUSPを打ち出せばよいのです。

 

【皮膚科医院側のUSPの実例】

まず思いつくものとしては、リンデロンなどのステロイド外用薬を処方する際、
「より効果が高まる塗り方を医師や看護師から丁寧に説明し、実際に塗って指導できる」
というポイントは大きなUSPとなりうるでしょう。

ドラッグストアなどでは、薬剤師や登録販売者から塗り方の説明までは聞くことができますが、
その場での塗布や指導は当然ながらできないという「OTC医薬品側に足りない要素」があるために、医院側のUSPが生み出されているという例です。

また患者さんに定期的に通院していただくことで、
「塗り方が適正かどうかを確認し、皮膚科医から継続的な指導や管理ができる」
「それにより、(皮膚の状態によっては)より適した薬を処方できる」という点も、OTC医薬品にはないUSPと言えます。

 

例えば、多くのドクターは皮膚の炎症の程度や部位に応じてステロイドのランクを決めておられるかと思います。

ドラッグストアの薬剤師や登録販売者は、ステロイド薬のランクは理解しているかと思いますが、
果たしてそのランクが患者さんの皮膚の状態に合っているかどうか、といったところまでを的確に判断することはできません。

 

安心を求めて皮膚科医院にかかるのか、それとも利便性を求めてOTC医薬品で済ませてしまうのかは、もちろん、最終的には患者さんご自身が選択する部分にはなりますが、
「皮膚科医院側にある強みは何なのか」「OTC医薬品側には無い強みがどのようなものなのか」
そういった点を把握しておくことで、診療の方針を考える際にも大いに役に立つことがあるかと存じます。

 

【まとめ】

今回はOTC医薬品を例に挙げて、「OTC医薬品とクリニックでの処方」それぞれのUSPを考えましたが、
この例をお読みいただくとわかるように、USPを考える際には「自院の特徴や強み」だけでなく、「競合するクリニックやサービスの特徴」を把握する必要があります。

 

例として、競合クリニックが接遇に力を入れている場合、
「自院も対抗して接遇に力を入れる」という戦略は、皮膚科クリニックを経営する上では間違いではありませんが、USPという観点から考えると、差別化にはそこまで繋がらないことも大いにございます。

(そもそも競合側の得意分野の土俵で戦うことは、よほどの事情が無い限りあまりお勧めできません。)

 

ですので、このケースでUSPを活かしたクリニック経営を行うのであれば、
他院の接遇が目立った強みとならない程度に(=自院の接遇が目立った弱みとならない程度に)自院も接遇教育を行った上で、
「診療の効率化を行い、待ち時間を短縮する」
「疾患の説明ができるようにスタッフを教育し、クリニック全体でより詳細な説明が行える体制を
構築する」
などといった方向でUSPを構築する、といった方法が考えられます。

 

さらに増患の面からUSPを考えると、単に何らかの要素で他院と差別化するのでは無く、
自院の立地など、置かれた状況から「地域の患者さんに求められる要素」を見つけ出し、それを自院のUSPにまで磨き上げることができるように院内体制を整備されると良いでしょう。

そうすることで、地域の患者さんから選ばれて通院される皮膚科クリニックに、また一歩近づくことができるのだと思います。

先行きが不透明なこの時代だからこそ、「患者数が減少する前に、患者さんに選ばれるためのUSPを設定し積極的に訴求する」ことをお勧めいたします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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